秋の味覚は数あれど 〜寵猫抄より (お侍 拍手お礼の六十)

 


 「こないだは、おいしー“もんぶらん”をありがとうでしたvv」

 カンナ村からのお友達、久蔵も大好きなキュウゾウお兄ちゃんが、
 先日御馳走になったおやつのお礼だと、
 小さな背中に背負った籠でもって、ごっそりと持って来てくれたのが、

 「うぁあ、これってカンナ村のさつまいもですよねvv」 
 「うん、そうだよvv」
 「みゃっみゃvv」

 生のままだと丁度いいおもちゃに見えるらしい久蔵はともかく、
 料理自慢のお主まで。
 何をそうまで、声を裏返してまで感動しておるのだと、
 勘兵衛が七郎次の興奮ぶりへ怪訝そうな顔でいると。

 「あ、勘兵衛様。芋なんてどれも同じだと思っておいででしょ。」
 「にゃあみゅっ。」

 仔猫の坊やからまで、非難めいた声を上げられてしまっており。

 「いや…ジャガ芋や里芋とは違うのだろうが。」
 「あまいっ!」

 勘兵衛様は骨太な活劇ばかり書いておいでだから、
 そこまで御存知ないかも知れませんが、
 サツマイモはこれで奥が深いのですよと。
 今日はきゅうと束ねた金の髪、
 窓からの陽に
 タマネギのつややかさを想起させるほど きらつやと輝かせて、
 七郎次がびしぃと指摘をし。

 「例えば、ほくほくと少々乾いた質感に焼き上がる種もあれば、
  裏ごししたかのようにクリーミィなそれへ変化するものもある。
  甘さだって千差万別で、
  ほんのりと塩を利かせて丁度いい、芋らしき風味となるものもあれば、
  りんごのように蜜が出て、
  そのままスイートポテトと変わらぬほどの甘さに
  焼ける種もあるのです。」

 「………ほ、ほほお、さようか。」

 あんまり甘いもの自体が得意ではない勘兵衛なので、
 知らなかったとてしょうがなかろうに。
 一旦丁寧に洗われたのだろう、赤紫の皮の色も麗しい、
 肥え具合も充実していて、見た目以上にずんと重たげな、
 流線形のお芋たちを両手に何本か抱えると、

 「特に、こちらのカンナ村のお芋は、
  しっとりした感触も甘さも絶品で。」

 百聞は一見に如かずですと、
 今から石焼き鍋で調理にかかるか、
 キッチンまで伸した辣腕秘書殿を見送り、

 「…今の七郎次、ちょみっと“おにのふくかん”の顔だったね。」
 「みゅあにゅう。」

 仔猫たちが感慨深げに頷き合っていたのへと、

 「……それはもしかして、
  たいそう怒っている折のことを言うのかな?」

 怖々と訊いた勘兵衛様だったら笑えるんじゃないかなとか、
 どこかから届いた焚き火の匂いに、
 ふと思ってしまった小話でございましたvv


  〜Fine〜  2010.10.17.

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